http://www.hirokiazuma.com/archives/000245.html

さて、東浩紀氏は、上記でアテンション・エコノミーについて書いていた。

少し調べてみた。そもそものアテンション・エコノミーの記述は、Michael H. Goldhaberの以下の講演(だと思う)。
これは1997年のものであるから、現在から見ると時代遅れの部分もある。
http://www.firstmonday.org/issues/issue2_4/goldhaber/index.html
ついでに彼の最近の講演のスライド。pdfファイル。
http://www.well.com/user/mgoldh/MMIG.pdf

どうもウェブ界隈の議論を見ていると「アテンションエコノミー」は、「ユーザーの目先の時間をぶんどること」という話になってるみたいだが、元々はそうじゃないようだ*1

アテンション・エコノミーというのは、「アテンション」=「注目」を基本に社会の構成を見直そうというものだ。

例えば、あなたは、今、この日記を読んでいる。とすれば、あなたは、この日記に「注目」を与えたわけだ。
あなたが一日に見るウェブサイトの数には限度があるから、あなたが、どれに注目するかは、有限の財産だ(この日記を読んでくれてありがとう)。

一方、私は、この日記で「注目」を得た。「得られる注目」には、そうした限度はない。まかりまちがって、このサイトが1日100万ヒットを記録した場合、私は、すごい量の「注目」を手にすることになる。

「注目」の授受は、既に、社会の基盤に組み込まれている。
あなたが本屋でマンガを読む時が、それだ。多くのマンガは、あなたの「注目」を求めようと競争している。
そのためには、本屋に何冊入れてもらうか、本屋のどこに置いてもらうかといった営業。そして広告といった労力が支払われている。これらは、すべて、読者の目にとまり、読んでもらうか、の、「注目」を集めるための投資だ。

現在のところ、その「注目」に沿って、お金が支払われるシステムができている。マンガなら、漫画家には印税。印刷所、出版社、流通、本屋にも、「読者の注目を集めた本」に対して支払われた金銭が、分配されている。

さて、では、デジタル時代にはどうなるか?
東氏は、以下のように書いている。

すべての情報がデジタル化された世界では、ひとびとは情報に対しては金を払わないか、あるいは払うとしてもきわめて小額になるだろう。では利益はどこから生み出されるかと言えば、「その情報を使ってだれがコミュニケーションをしているか」という物理的な現実からというわけだ。この図式はとても説得力がある。

えーと、Michael H. Goldhaberの主張を見る限りにおいては、必ずしも、そういうことは書いていない。
アテンション・エコノミーにおいては、人々の交換財(お金の代わり)が「注目」になる、ということだけだ。
衣食住がだいたい満たされれば、次に人間が求めるのは、昔で言うところの「栄誉」。ここで言うところの「注目」である、ということだ。

さて、さっきの例に戻ろう。
「注目」を交換財として見た場合。
このサイトが100万ヒットを記録した場合。私個人は、百万人一人一人に直接「注目」を割いているわけではない。でも、読者のあなたが、「この文章は私にとって有益であり、著者がその分の「注目」を割いてくれた」と感じるから、100万ヒットが成立するわけだ。

次に、ビジネスの話に移ろう。
私が百万ヒットの日記をもっている、とする。できれば、これで、衣食住をまかないたいと思う、とする。
ではどうすればいいか?
本の場合、「本」という物理媒体を通し、それによる「注目」に沿って、お金が循環した。これが、ネット上のコピー可能な情報の場合、どうなるか?

この話は、将来のコンテンツ産業においては、DVDを売る(情報財を売る)のではなく、まず無料で作品をばらまいて、そのあと「その作品を使ってコミュニケーションする人々」に課金するような、そういうビジネスモデルが優勢になることを意味している。そして、検索連動型広告のように、そのような小額課金が可能な新たなプラットフォームがいま続々と提案されつつある。

「その作品を使ってコミュニケーションする人々」に「課金」するって、どうやるんだろう?
この日記が百万ヒットするようになったら、ネットのあちこちで、それに対する議論、コミュニケーションが発展するだろう。それ自体を止めることはできないし、強制課金することも、無論、できない。

課金できるとすると、マッチングだろうか?
つまり、「東浩紀の文章を批判する日記」の読者同士を結びつけるサービスだ。
現在でも、それは存在する。例えば、はてブだ。

「マッチング情報」も、情報である以上、理論上タダでコピーはできる。が、低額課金で充分に便利なら、それに、お金を支払う人はいるだろう。が、そういうシステムを作るなら、そのSBSから、ヒット数に応じて人気コンテンツに、何%かを環流するシステムも作れるはずだ*2

理論上、作者環流型SBSは、そのことを宣伝することで、より多くの参加者をゲットできるだろう。料金が同レベルなら、「作者を支援している」という満足は、アドバンテージになる。
コンテンツ作者も、SBSから金をもらうことで、そのSBSを意識したコンテンツを提供するようになるから参加者にも得になる、というわけだ。俺が百万ヒット日記作者なら、先行情報、独占公開権を渡す代わりに、投資を求めることもできるだろう。

こう書けば、さっきのマンガと、なんら変わることはない。作者は広告を必要とし、広告もヒットコンテンツを必要とする、というだけの話だ。

要するに、作品の「情報自体」の価値はコピーによってゼロになっても、「注目財」としての価値がなくなるわけではない。注目に課金する側も、常に新たな「注目財」=「作品」を必要としている以上、作者は作者で大切である。

必要なのは「注目」に沿って課金する仕組みだ。そもそも娯楽商品というのは、結局、「注目」を売っているわけで、これまでも、広告や商品を通して、「注目」に沿った課金がされてきた、と言い換えてもいい。ネット時代において、「注目」は、見えやすく(あるいは少なくともデータ化しやすく)なった。それに応じた対応が、作者もディベロッパーも必要とされるだろう。

東氏の危惧は、例えば、そうしたSBS、ディベロッパーが幅を利かせ、コンテンツ作者にの上に君臨する状態だと考えられる。
だが、これは、既に、現実に起きてることだ。安直な例になるが、広告代理店が有線などを独占して同じ曲を流しまくり、それによってミリオンヒットを量産し、広告代理店のコネがないインディーズは、どれほど曲が良くてもアテンション=注目、そして金銭を得られない、という構造とかね。

理論上、ネットはこれを打開するはずである。ウェブにおいては、受け手側からの情報発信が簡単かつ大きなインパクトを持ちうる*3

もちろんデジタル時代の問題もあるだろう。その一つは料金の柔軟化である。

7000円のゲームソフトと、700円のマンガがあるとする。
どっちが面白かったか、どっちに注目を取られたか、は、人それぞれだろう。
7000円のゲームソフトより、700円のマンガのほうが面白いことは、よくある話だ。

「商品」に課金される場合、7000円のゲームは、ひとまず「そういうもの」として買うしかない*4
「注目」に直接、課金がされる場合、まず「ゲームソフト」「マンガ」があり、次に、それぞれに、集めた人気相応の金銭が支払われることになる。

さて。原価となる労働力は、「ゲーム」と「マンガ」で、ものすごく異なる。一本のゲームソフトを完成させるに至る資金と、一冊のマンガでは、後者のほうが圧倒的にコストパフォーマンスがいい。

また「注目」に注目した場合(失礼)。
例えば、ウェブ日記では、SBSで貼られているタグやコメントを参照し、それに沿った話を展開してゆくのは容易である*5。一方で、アニメで、それをするのは、ウェブ日記や本に比べると難しいだろう。

つまり「同じくらい面白い」ゲームは、「同じくらい面白い」マンガに比べて、効率が悪い、ということになる。その傾向が増幅されていった時、お金のかかるプロジェクトは、果たして、どのように運営されてゆくのだろうか?*6

例えば映画。黄金時代という言葉がある通り、人件費が上がり、嗜好が分化した現在では、もう取れないタイプの映画というのが存在する。
アニメやゲームにおいても「昔は、あれだけ予算や工数をかけられてよかったねぇ」という時代が来るかもしれない*7

それに対してどうするか。このへんは、現場の人は、既に考えており、対処中だろう。完成前からのプロモーション。部分的公開(体験版)。その中でユーザーの注目を集め、また、その注目を反映させる姿勢(製作者のウェブ日記とか)。そして技術的優位の反映等々。

良い面を考えると、マイナーな需要にも、それなりにお金が還元される、という利点だろう。Google Adsenseで、小銭を稼いでいる人は多いだろう。それ一本で食っていく、というほどではなくても、余暇で作った作品を公開して、それなりの認知を受けられる。ついでにブレイクの可能性も理論上ある。

大規模プロジェクトから小規模プロジェクトにおいて、それぞれに変化しうる点。望ましい未来も陥りかねない罠も数多いことだろう。これについては、今後も考えてゆきたい。

*1:ざっと調べただけなので、きちんとした経緯があったら教えてください

*2:というかむしろ、無料のSBS&嗜好分析システムは既に存在するのだから、それを有料化する際に「作者にお金を還元するついでに、仲介料を取らせてよ」システムが、今後、出てくることになるだろう

*3:理論上、と、書いた。ネットにおいても検閲の問題はあるし、ひとたび検閲されれば、それは大きな問題となる。そのことは忘れてはならない。

*4:そのへんの歪みで、中古市場問題とかいろいろあるわけだが

*5:SBS以前からジャンプの連載漫画は、そういうことを既にやっており、そして成功している

*6:マンガなどの本は、物理的インターフェースとしての本の取り回しの良さで、当分優位に立つと思う。ウェブ上でテキストやマンガを読むのは単純に疲れる

*7:……が、来ないかもしれない。これまでの議論は「コピー可能な情報は、いずれ完全無料で流通する」というのが前提である。そこまで極端にはならないと思うのですよ