でじこに関する2、3のことども。2003/09/12

 さて、これまでの批評では、なるべくトリビアルなツッコミは避けようと努力したつもりである。
 細かい揚げ足を取ることは、必ずしも全体の論の批評には結びつかないからだ。事実関係の問題を指摘した際は、なるべくそれが、全体の論の中で、どのような位置を占めているかを確認し、なぜそれが問題なのかを書いたつもりである。

 そのへんが一段落したので、今回は、単純な事実関係の問題について調べてみたい。最初に書いておくが、私の指摘通り、事実関係が間違いだったとして、それは必ずしも東浩紀氏(id:hazuma)の姿勢や論全体を否定するものではない。単に事実関係の問題として受け取ってほしい。

 今回問題にしたいのは、「デ・ジ・キャラット」通称「でじこ」である。

 「動物化するポストモダン」p63で、東は以下のように書いている。

このキャラクターはもともと、アニメ・ゲーム系関連商品を取り扱う販売業者のイメージ・キャラクターとして作られた。したがってその背景にはいかなる物語も存在しない。それが九八年の後半より徐々に人気を集め、九九年にTVCMでブレイクし、二〇〇〇年にはアニメ化やノベライズもされ、いまでは確固たる作品世界を備えている。
 この物語で注目すべきは、そこで作品世界を形作る物語や設定が、すべて、でじこのデザインが単独で支持を集めたあと、市場の期待に応えるかたちで集団的かつ匿名的に作られてきたことである。
(中略)
 また、いまではでじこには「生意気でうかつ」という性格が加えられているが、この設定も最初から用意されていたものではなく、アニメ化に際して半ば自己パロディ的に付け加えられたものだ。
(中略)
 このような状況においては、「デ・ジ・キャラット」のオリジナルがどのような作品で、その作者がだれで、そこにはどのようなメッセージが込められているかを問うことは、まったく意味をなさない。

 先に断っておくが、望月も当時の資料を、しっかりとした形で持ってるわけではないし、リアルタイムで「フロムゲーマーズ」を愛読してたわけでもないので、ミスや勘違いがあったら指摘してほしい。

 まず、でじこの歴史に関しては、このあたりを観てほしい。

 一見してわかるのは、でじこは、登場してすぐ、4コマのキャラとして展開している、ということである。

 でじこの登場する4コマ「げまげま」は、こちら
 これの2号(1998年8月)に、でじこは登場し、「八神庵大好きっ子で、ちょっぴりうかつ者」と自己紹介している。以降の連載で、「目からビーム」「生意気」といった特徴が明らかになっていく。ちなみに、アニメ放送は、1999年11月29日。

 また、いまではでじこには「生意気でうかつ」という性格が加えられているが、この設定も最初から用意されていたものではなく、アニメ化に際して半ば自己パロディ的に付け加えられたものだ。

 よって、上記の記述は、全くの間違いである。もちろんアニメで、でじこのキャラを知った人も多いだろうが、そもそもの方向性は、漫画の時点で決定されていた。

 いずれにせよ、でじこの性格は、デザインのみの状態から「集団的かつ匿名的に」作られたのではなく、はっきりとした作家性の元に設定されたものである。それは「コゲどんぼ」であり、アニメに関しては桜井監督である。

 とはいえ、「フロムゲーマーズ」を毎号読んでいたおたくは少なく、たいていのおたくは、まずグッズのイラストやCMから、でじこに触れただろう。その意味、デザイン先行というのはある程度は正しい。

 ちなみに筆者がでじこを最初に知ったのは、98年12月。ゲーマーズで買った時についてきたクリアファイルか何かだったと記憶している。
 あのCMが始まる直前だった。

 このような状況においては、「デ・ジ・キャラット」のオリジナルがどのような作品で、その作者がだれで、そこにはどのようなメッセージが込められているかを問うことは、まったく意味をなさない。

 で、その時、上記のような印象は、全く受けなかった。
 やたら可愛い描線の猫耳メイドが、黄色く丸い生き物を笑顔で虐待していた。つまるところそれは、とってもブラックで、ある種の悪意に満ちていたイラストだった。

 そもそも、でじこというキャラは、メッセージまるだしのプロパガンダである。そのメッセージを知るには、当時の背景を振り返る必要がある(以降、不確かな記憶で書いてます。ツッコミ歓迎)。

 ゲーマーズは、当時、新興の、おたくグッズ店だった。グッズ店には、当時、アニメイト(アニメ系)やマルゲ屋(格ゲー系)があり、はっきりいってゲーマーズは目立たなかった。
 ゲーマーズは、独自路線として、美少女系をメインに据えて展開を始め、その時の、マスコットキャラがでじこだったわけだ

 当時はまだ、萌え文化が、おたくに認知される途中だった。つまるところ、萌えグッズ店というのは、入るのが恥ずかしいお店だった。

 でじこというキャラは、そういう状況を前提として成立する。

 萌え要素を重ねた狙いすぎのデザイン、「にょ」という無意味な語尾(当時、かわいい語尾をつけるのは萌えキャラの一属性として認知されていた。それを逆手にとって、かわいくもなんともない語尾をつけたわけだ)。限度を超えたわざとらしい媚びは、すなわち嫌みである。

 要するに「あぁん、おまえら、こういうの好きだろ?」的な悪意に充ち満ちたキャラだったのである。つまり、「うちは、こういう店じゃ!文句あるか!」的な自虐と挑発に満ちた「ゲーマーズ」のメッセージだったわけだ。

 当然、おたくも、ひねくれた受け止め方をした。初期のおたくの間では、でじこは、嫌う人と好む人の間で、まっぷたつに分かれた。

 で、好む人にせよ、「でじこ萌え〜」というのは、例えば「綾波萌え〜」とか「ルリルリ萌え〜」というのとは、全く違う意味があった。要するに「でじこ萌え」というのは、ブラックジョークに敢えて乗ってやっているという、皮肉や冗談、自嘲を含んでいるのだ。

 でじこが、生意気な性格で、おたくを見下しているのは自然発生的なものではない。最初から、おたくに対する悪意という、明かなメッセージのもとに作られたキャラだったのだ(げまげま4コマをもう一度見てほしい)。

 ゲーマーズの方針は当たり、今となっては、でじこは普通に萌えキャラとして受け取られるようになった*1。なんならそれを「第2世代オタク」から「第3世代オタク」への遷移、と言ってもいい。

 だが、「でじこ」というキャラに関しては、これは明かな作家性(コゲとんぼ)と、強烈なメッセージ(ゲーマーズは、萌えおたくの店だ!)の元に作られたキャラクターであったことは忘れてはいけない。

*1:この記述に関して、あとで指摘をいただきました。http://d.hatena.ne.jp/motidukisigeru/20030915#p3