ファウスト賞と血の交換:追記
手を合わせて見つめるだけで
愛し合える話も出来る
くちづけするより甘く
ささやき聞くより強く
私の心をゆさぶるあなた
ピンク・レディ「UFO」(1977年)
「それ遅いんじゃない?」ということを感じた方は、他にもあちこちにいらっしゃったようで、id:lepantohさんの記事などを参照。
吸血鬼テーマ自体の変遷などが具体的に読めます(ま、こっち読んでから、あっち読む人は少なそうなものだけど)。
個人的には、「ファウスト」が遅いとは思わない。
単純に言えば吸血鬼テーマは、王道で定番なわけで、そういう作品が、カラーの一致するファウスト賞に集まること自体は、「遅い」わけではない。
最新流行に沿った作品、新たな流行を作り出す作品もファウスト賞応募作にはあるかもしれない。また、定番・王道の中から、新たな時代を切り開く重厚な作品だって出てくるかもしれない。
定番・王道に話を戻すと、身体的で、かつ、非身体的な……この日記で言うところの「適度に生々しくなく、かつ適度にエロくて、それでいて言葉によらずわかりあえるコミュニケーション」を求める心は、娯楽の基本として古くからあるテーマだと思うのですよ。
冒頭に掲げた「UFO」とかさ。
それはid:lepantohさんの追っているように、萩尾望都をはじめとする少女漫画が、ずっと深化させてきたテーマだし、そのほかのマンガでも文学でも散見される普遍的なテーマだと思う。
普遍的なテーマである、ということは、そこから離れた先鋭的な作品がある一方で、十年一日のごとくに定番で月並みな作品として生産され、消費され続けているということでもある。
東氏は、それを「若い書き手の関心が後者のほうに移動しつつある」と捉えているが、圧倒的に間違っている。
ファウスト賞の応募者は10代、20代ばかりで、しかも男性が多い。そんな若い男性が小説を書いておきながら、100作に1、2作しかセックス描写がないというのはかなり異常な事態です。
というけれど、異常でもなんでもない。
試しに男性向けライトノベルを100冊とって調べてみればいい。具体的なセックス描写があるのは、1、2冊もないでしょう*1
なんでか?
ヤリたい盛りの青少年にとって、セックスは興味の中心である。だからセックス描写を下手に入れると、そこで話が終わっちゃって、テーマやら雰囲気やらが、どこかに行ってしまうのだ。
だから、ありがちな青少年ラブコメでは、主人公は延々とおあずけを喰わされる。*2
積極的なエロ小説に特化するとか、あるいは、日常の一コマとして、さらりと入れればいいんだけど、それはどっちも大人向けで、10代男性向けのテイストじゃない。
本の雰囲気を崩さない形でエロさを出したいのなら、「吸血」等の、間接的なセックス描写は、まさしく王道なのだ。
男性向けライトノベルを100冊とって、「間接的なセックス描写」……すなわち「異性間の肉体的接触が、世界設定的な必然性を持って描写される作品」が幾つあるか数えてみればいい。
1、2冊ではきかないはずだから。