ガンダムとデータベース2003 09/17

 データベースと世代論の話を続けよう。
 東氏(id:hazuma)は、第2世代作品……世界観を持った作品の典型として、「ガンダム」を挙げているが、果たして、そうだろうか?

 「ガンダム」という作品は、基本的に「かっこいいキャラ」が「軍服」着て、「かっこいいロボ」に乗って、「ドンパチ」やるのが基本である。それだけではないが、それが無くては始まらない。

 ガンダムの功績というのは、要するに、新たな萌え要素の発見である。それというのは、スパロボだけではない、量産ロボのかっこよさであり、軍隊のかっこよさであり、これまでのマッチョなヒーローではなく、反抗する線の細い若者という萌えツボである。

 考えてみよう。ミリタリー物と巨大ロボというのは、普通に考えれば、全く別の、矛盾するジャンルだ。そういう、本来、世界観的に、相矛盾する萌えツボを、ジャンルも何も越境して、いかにもデータベース的に、節操なくぶちこんだのがガンダムである*1

 成功したのは、まず、この二つの萌えツボの「組み合わせ」であり、そこで消費されたのは、そういうデータベースなのだ*2

 ガンダムの歴史、設定というのは、つまるところ、沢山の萌えキャラと、プラモデルをでっちあげるためのギミックに過ぎない、と言ってもいい。

 もちろん、データベース的な部分……ここでは、売れ線要素を無節操に詰め込むこととする……もあれば、それらを統合しようとする世界観もある。ガンダムに関しては、世界観が優勢である、とする考え方もあるだろう。

 では、どっちが優勢か、検証してみよう。

 例えば、ガンダムの設定。これは、誰でも知ってる通り、破綻してる。普通に考えて「一年戦争」内に開発・投入された兵器が、あんなに沢山種類があるわけないのだ*3

 これというのは、つまるところ設定のクソリアリズムなんかより、4クール・アニメの中で、かっこいいメカを出し続けることのほうを優先した結果である*4

 結局のところ、設定というのも、単なる萌え要素の一つに過ぎない。
 萌え要素を組み合わせる際に、「設定萌え」と相性のいいジャンルもあれば、そうでないジャンルもあるというだけのことだ。
 例えばガンダムは軍事ものなので、萌え要素として設定と相性がよく、むしろ必要である。「宇宙世紀ナントカ」とか、「カントカ戦乱」とか、そういう記号がないと、燃えないではないか*5

 それが記号以上のものでない証拠には、設定が最初からいい加減であったことを指摘すればいいだろう。

 東氏は、それらの設定が全体を想起させるから、大きな物語で、第2世代と第3世代は断絶してる、と言うわけだ。

 「設定萌え」は確かに、全体を妄想させる力がある。というか、それが、「設定萌え」の役割だ。これが第2世代固有かどうかは、それ以前、それ以後のオタク系文化を見てみればいい。
 エヴァ以降も、「設定萌え」の作品はある*6。「ガンダム」以前も、「設定萌え」の作品はある*7

 よって、これは、時代の変化を現すものではなく、単にいつの時代も有効な、一つの萌え要素でしかない。
 以上。証明終わり、としたいところだ。*8

*1:のちには、SFの萌えツボである、人類進化テーマまでぶちこんだ。

*2:もちろん、その新たな組み合わせを支えて見せるだけのパワーを持って、圧倒的に面白いものを提供した作品のクオリティこそが、成功の理由である。ここで言いたいのは、単なる歴史設定と、新たな萌えツボの発見と、どっちが大きな意味を持つかというと、後者だということだ。

*3:これに比べれば、「ある日突然12人もの妹ができる」ほうが、まだ有り得る

*4:無論、スポンサーがおもちゃ会社だというのもある。

*5:矛盾を矛盾とした上で、それらをつなぐストーリーをでっちあげる、いかにもオタク的な活動は当然あり、それは「ガンダム・センチュリー」を初めとした極めて面白い結果に結びつくが、大半の人間にとっては設定の矛盾はどうでもいいものか、あるいは、自虐的に「リアルロボとか気取ってるけど、所詮、アニメはアニメなんだよなぁ」的に受け止めるものに過ぎなかったわけだ。ミノフスキー粒子の万能性を、とりあえず揶揄してみるのは、基本だろう

*6:東氏がよく挙げるノベルゲームで言えば「月姫」なんかは「設定萌え」の要素を大きく含んでいると言えるだろう

*7:架空でない、軍事趣味、歴史趣味。その映画や小説とかね。「指輪物語」を初めとする架空世界の膨大な系譜もある

*8:無論、「ガンダム」を過小評価するわけではない。「ガンダム」は軍事系を含む、非常に多数の萌えコードを、新たにオタク系文化に持ち込み、それらがオタク系文化で通用することを示し、その後に続く非常に大きな流れを作った意味で、とてもエポックメイキングな作品である。であればこそ、それを「第2世代=世界設定」という安直な枠組みで捉えることはできない、ということだ。