動物化するオタク系文化 IT

世界のデータベース化は、経済的にはグローバル化、技術的にはIT化によって支えられます。この二つが関係していることはよく論じられますが、その同じ変化が文化的側面では「ポストモダン化」として現れている、というのはあまり指摘されません。しかし、データベース化、グローバル化、IT化、ポストモダン化、文化的多様化などがみな同じ大きな変化の一部である、というのは、だれもが直感的に感じていることだと思います。p28

 「動物化するポストモダン」の批評(9/11あたり)にて、この本にはポストモダン化のメカニズムの説明が欠けている。例えばネットの勃興によって、このように説明できる、とか書いてほしい、と述べたわけですが。
 ここで、東氏は、IT化、グローバル化と、ポストモダン化が関係あると述べています。いや、わかってるんだったら、「動物化するポストモダン」に、そう書いておけ、と心の底から思うわけです。

 さて、id:hitomisiriingさんの9/12のコメントのコメントにて、goito、伊藤剛氏から、

『望月さんは「ポストモダン、という言葉は一般に知られていない」と書きましたが、ポストモダン、という概念に親和性のあるひともいるのです。それは「オタク的」なカルチャーにディープに関わっているひとと同じ程度にはいるかもしれない。そのへんの想像力を持ってもらったほうがいいと思います』

 というコメントをいただきました。

 俺は、そう、「ポストモダンという概念に親和性のある人」というのは「オタク的なカルチャーにディープに関わっているひと」と同程度にしかいないと思っています。つまり、圧倒的大多数の人は、どっちも知らない。読者というのは、そういう人である、というところから始めなくちゃいけない。

 では、そういう人は、どういうことに興味を示すか? まぁ「オタクから見た日本社会」という本を買うくらいですから、オタクおよび日本社会に関する面白い事実くらいには興味を持つでしょう。「でじこ」とかね。ここまではいい。

 次に来るのはメカニズムの説明です。普通、人間というのは、具体例を欠いた抽象思考には、あっという間に興味を失うので、その興味を持続させるため、さっきの事実を直接説明するような、具体的なレベルの理論・メカニズムの考察を行います。この場合「でじこ」は具体的に、どのように生まれて、どのように受け取られたか。なぜ、これまで「でじこ」みたいなキャラが生まれなかったか、とか、そういう話です。

 そういう考察を積み重ねて、やっと最後に、抽象度の高い理論……この場合は、文化全体のポストモダン化の話を振れるわけです。

 ところが東氏は、そういう当たり前の説明をしない。「でじこというキャラがブレイクした」→「データベース化だ」。「ノベルゲーが流行った」→「大きな物語の崩壊である」みたいに、中途をすっ飛ばして、すごく抽象度の高い理論にくっつけている。

 これは、論として粗雑ということもありますが、それ以前に、最初から「大きな物語」「ポストモダン」に興味を持っている人相手にしか伝わらない説明です。普通の人……数少ない現代思想オタク以外にとってどう見えるかというと、様々な事実を、聞いたこともないし、実感もない、もしかしたら、ただの屁理屈かもしれない「ポストモダン」とやらで、説明されて、何も分かった気がしないわけです。

 もちろん、意味が伝わってないにも関わらず、「おぉ、なんか俺様、頭が良くなった気がするぞ」的な感想を得ることはあるでしょうが、それはきっと、東氏の望んでることではないでしょう。