動物化するオタク系文化  ノベルゲーム

 具体例としてあげられているノベルゲームについて。
 ノベルゲームというのは、簡単なツールで、ゲームから画像データなどが吸い出せるようになっています。
 東氏は「例えば同人誌ではキャラクターは自分の手で描くわけだから、作家性の残滓が宿る」「吸い出したデータを使えば原作と同じ価値を持つ別ヴァージョンを自分で作れるようになる」と述べ、そうした新たな二次創作、シミュラクラの可能性を指摘し、その具体例として、マッドムービーを上げています。

 さてマッドムービーで「原作と同じ価値を持つ別ヴァージョン」的な作品……つまり、「痕」なら「痕」のデータを使い、原作と同じ画面構成の中で外伝やらSSを語る作品が出回れば、それも一理あるでしょう。
 実際には、マッドムービー……Flash系に、そういう作品は、限りなく少ない。まずマッドと名のつくものは、たいていは全然違うジャンルのものを組み合わせて、受けを取る一発ものが多い。画像はミキシングの材料であって、要するにサンプリング以外のなにものでもない。

 東氏の考えてるのに近いものは、ノベルゲームの製作ツールです。「痕」からデータを抜き出して、自分でノベルゲームを作ることは、マッドムービーではなく、そうしたツールを通じて可能になる。なかでも、原作そっくりのものを作ることに特化したツールとしてDNMLなどがあります。

 もしこのDNMLとかが大ブレイクしていたら、作家性を排除し、「原作と同じ価値を持つ別ヴァージョン」を作る欲求がある、と認めて差し支えないと思います。

 さて、筆者は、DNML界隈(あるいはDNML的な、原作画像をそのまま使った自作ノベルゲーム)に詳しくないんですが……ま、控えめに言って同人誌は愚か、Flash系に匹敵する価値を持つところまでは行かなかった、と言ってもいいんではないかと思います*1。流通させにくい。プレイしにくい、というのもありますが、ある意味、同人誌やマッドムービーを作るよりラクだというのに。
 そういう環境があるのにブレイクしなかった、というのは、やっぱり、作家性を排除しようとする欲求自体が、ないんじゃないかと思わざるを得ません。

 同人誌は、萌える絵、抜ける絵を求めて買うもので、「作家性の残滓」どころか「作家性」自体を求めている。別にオリジナルのコピーが欲しいわけじゃない(原作者が描いた絵ってのならともかく)。

 東氏の考えるような「データベース消費」というものが存在しないという、もう一つの例証かもしれません。

*1:DNML界隈に詳しいかた、教えていただけると幸いです